筆者は大手 SIer で 10 年仕事をしてきました。 その経験を踏まえて、SIer でどのようなスキルが身につくのか、あるいは何が身につかないのかを解説します。
先に結論から述べると、ネット上で多くの人が言うように、SIer では
- 開発スキル
- ソフトウェアエンジニアとしてのスキル
- プログラミング力
などは身につきません。技術力に関しては、SIer 社員の 99%が素人に毛が生えた程度です。転職市場で評価はされません。
SIer に誇りを持っている一部のツイッタラーは「SIer は変わった!SIer でも自分次第で技術力が鍛えられる」などと言いますが、言ってる本人にスキルが全く無いので、何の参考にもなりません。 彼らが思い描く「スキル」の水準が低すぎるからです。
足し算や引き算ができるかできないかの小学生が微分積分を語ることはできないでしょう。
SIer マンセーのツイッタラーも同じです。 public static void main()
の中で足し算や引き算ができるかできないかのレベルの人間なので、彼らに「技術云々」を語らせても頓珍漢になります。
SIer マンセーの連中は 100%ポジショントークで、自分の誇りを満たすためだけに発言しているので、SIer の実態を知りたい人は無視してください。
ちなみに SIer が開発を委託している協力会社(通称 SES)の方々もコードは書けますが、そんなにスキルは高くないです。 古い業界で、技術スタックも変わることなく、同じ仕事をずっとやってきているため、モダンな技術に関する知見がほとんどありません。
大手SIerの問題はいまだに高学歴で技術志向の優秀な学生がなぜか就職してしまい、プロジェクト管理おじさんになってしまう点だと思います。ビジネスモデルの違いなのでそれ自体は良いのですが、何も知らない学生にSIerも技術が身につくみたいな宣伝をするのは辞めて欲しい。 https://t.co/6Na6oY2eX0
— たろ丸 (@tenche1204) July 10, 2022
大手 SIer に「技術志向」の人が一定数いるのはたしかです。
一定数といっても、「技術が好き」な人の割合は 50 人に 1 人くらいです。
逆に「技術など重要ではない。ビジネスこそが重要だ。俺たちの仕事は管理だ」と言って、コードを毛嫌いしている人が非常に多いです。
体感だと、半分くらいの社員がコードを目にするのも嫌がっているように見えます。
「コードは見せるな、Excel で絵を描いて説明しろ」という人です。
会社で Visual Studio Code を開いていると、「サボっている」「遊んでいる」とみなされます。
会社標準のメールソフトかチャット、Outlook か Excel, PowerPoint しか開けません。 せいぜい Teraterm というターミナルソフトが許されたくらいです。
ただ、同じ SIer でも、「テクニカルエンジニア(技術系の部署)」で採用された人は技術志向の人が多いです。社内でハッカソンみたいなことを開催している人もいます。 学生時代は非常に優秀だった人ばかりです。
とはいえ、大手 SIer の社員のほとんどの人材は、目の前でハッカソンが開催されたとしても、何一つ自分の手では作ることができずに、2 日間を地蔵のように過ごすでしょう。 基盤系の部署に配属されるのは、同期が 300 人いたとして、30 人くらいだからです。
SIer 社員の大多数は技術嫌い、技術は素人、プロマネならできる、という人です。
大手 SIer のスキルを考える上での前提
大手 SIer とは、社員数 5000 人以上、平均年収 800 万円以上の会社とします。
このような会社では必ず、「配属ガチャ」があります。
金融系、産業系、証券系、基盤系...などの様々な部署があり、入社日に配属が言い渡されます。
どこに配属されるかで身につくスキルは若干違います。
特に「基盤系」かそうでないかで「技術寄り」か「プロマネ寄り」かは変わってきます。
クラウド系の部署は大当たりです。スキルが高く、優秀な人が多く、転職に強いです。
「基盤系」だとしても、古臭い金融システムなどの保守担当になると、途端に技術的な内容からは離れてしまいます。
古いシステムの担当者の仕事は、古いシステムが古い基盤で、古いままでもちゃんと動くようにお守りをすることだからです。 基盤系だとしても、実作業は協力会社のメンバーがやります。自分では手を動かしません。
設計を担当できるなら良いですが、協力会社から上がってきた設計をレビューするだけの人が多いです。
大手 SIer では基本的に配属先を選べません。日系大企業は人事部が勝手に配属先を決めるのです。
どんなスキルが身に付くかは配属先次第です。
スキルに応じて配属先が決まるのではなく、配属先が先に決まって、配属先に応じてスキルが確定される、という点を覚えておいてください。
大手 SIer では実質的に、キャリアの選択肢はなく、他人(人事)によって勝手に決められるのです。
そして本人の希望いかんに関わらず、ほとんどの人が「大きなシステムのプロジェクトマネージャー」を目指すように、暗黙的に強制されます。 対外的には「色んなキャリアパスを選べます」と述べていても、SIer ではプロジェクトマネージャー以外のキャリアパスはほぼありえません。
プロマネ以外の経験を積めるかどうかは、運ゲーです。
逆にどこに配属されても共通で身につくスキルもあるので、その点についても解説していきます。
ここまで読んで、「たしかにその通りだな」と感じた SIer 社員の方は、本当に早めに転職活動を始めた方がいいです。
転職のリンクを貼ると、「こいつもカネ目当てで口八丁だな」と思われるかもしれませんが、別に私のリンク経由じゃなくてもいいので、転職活動はやっておきましょう。
SIer から外資 IT のソフトウェアエンジニアに転職できるなんて思うなよ
SIer の中で、「技術をやりたい」と言い続けていれば、いつか希望が叶い、思う存分に手を動かして、ソフトウェアエンジニアとして経験を積めて、最後は Google とかに転職できるとか思ってませんか?
馬鹿なんですか?来ないですよ、そんな機会。
5 年待って来ないのに、なんで年取ってからチャンスが来ると思ってるんだろう。そんな道、存在しない陽炎です。
チャンスを待っているうちに 40 代、50 代になって八方塞がりになります。SIer ではソフトウェアエンジニアは求められていないので、ソフトウェアエンジニアとして経験を積む機会は得られません。 仮にコードを書ける部署があったとしても、周りが優秀なプログラマーである確率は低いです。
キャリアは自分で選ばないと、いつまでも人事異動の運任せになります。そして SIer の配属ギャンブルは、技術志向の人にとってはかなり分が悪いギャンブルです。99%は外れだからです。
転職活動すれば、自分でキャリアを選べます。仕事を通じて身につけるスキルを選ぶこともできます。
「自分が希望する業務」をやっている会社に、「希望する職種」で転職すればいいからです。
ちなみに SIer からでも、Google Cloud や AWS のソリューションアーキテクトとして転職する人はいます。
といっても、プロマネ経験者からの転職というよりは、SIer のクラウド系の部署からの転職がほとんどです。
プロマネよりの経験した積めない部署にいる人は、あまり期待しないほうがいいです。
運良くクラウド系の部署に配属された人は、「GAFA 予備校」として部署の経験を活用しましょう。
できるだけ早く LinkedIn に登録して、外資 IT に転職してください。SIer では新しい経験があまり積めないので、年を取れば取るほど成長速度は遅くなります。
早めに転職しましょう。
大手 SIer で必ず身につくのは「調整スキル」
大手 SIer では「ソフトスキル」が鍛えられます。 ソフトスキルとは、個人の仕事の進め方や、他の人と一緒に仕事をする際のベースとなる個人の習慣や特性を指します。
SIer の中で最も必要とされ、かつ鍛えられるのは「調整スキル」です。 転職活動では「ステークホルダー・マネジメント」と言い換えましょう。
様々な関係者の利害を調整し、落とし所を探り、各人のメリデメを考えてプロジェクトにとっての最適解を探します。
「調整能力」というとくだらなく感じたものですが、プロジェクトの円滑な遂行のためには重要なスキルです。
どの会社にいっても、組織で開発を進める以上、調整は必要です。 つまり、調整役も必要ということです。
面倒だし、ストレスが溜まるし、やりがいがあるとはお世辞にも言えないですが、どの組織でも必要な仕事です。
調整スキルを「専門性」と言うのは難しいですが、できない人はいつまで経ってもできません。
この辺は根本的な「頭の良さ」の問題なので、頭が悪い人は調整できずに仕事が回せません。
大手 SIer からベンチャー企業に転職すると、上司のソフトスキルがあまりにも低すぎて驚くことがあるかもしれません。
ベンチャーには「地頭の良さ」と言われがちなソフトスキルが低い人が多かった印象があります。
ソフトスキルはマネジメントする人間には必須ですので、ソフトスキルがない人が上に立つと、組織が不幸になります。
以下のような「スキル」は大手 SIer で確実に身に付きます。これらがないと仕事にならないからです。
- 人の話を聞いて意図を正しく理解する
- 人に話をわかりやすく伝える
- 作業の段取りを組んで、組織が効率よく動けるように調整する
- 計画を立てて、進捗を管理する
- 報告と連絡、相談を適切に行う
- 論理立てて説明する
- 要点を素早く吸収して、仕事の概要をざっくり掴む
SIer では身につかない実装(コーディング)スキル
コードを書いて、何かを作る「開発スキル」は SIer では身につきません。 SIer の人にもプライドがあるので、「俺達でも普通にコーディングくらいできるから」とムキになって反論してくるかもしれませんが、ママゴトしてる幼稚園児が「僕だってお料理できるもん」と怒っているのと同じです。
レベルが低すぎて話になりません。
SIer の中で「技術をよく知っている人」のレベルが自社開発のソフトウェアエンジニアの最下層レベルです。私も転職して気付きました。
事実なので、そこは受け入れましょう。普段の業務でコードを書かないのだから、仕方ないんです。
SIer のごく一部には、実装を担当するスペシャリスト部隊がいます。「基盤技術部」みたいな部署にいることが多いです。
そういう人たちの技術レベルはそこそこ高いです。メガベンチャーのシニアソフトウェアエンジニア以上のレベルには達しています。
ですが、そのように技術レベルが高い人は SIer 全体の 1%に満たない人数しかいないので、自分がそこに入れるとは限りません。
99%の大手 SIer 社員は実践レベルの開発スキルを身につけることはできません。少なくとも、業務を通じて技術を学ぶことはできません。
プログラミングスキルを身につけること自体が全く期待されない、と理解しておきましょう。
大手 SIer にいるならば、獲得できるスキルはプロマネ一択です。
プロジェクトを管理して、技術者に仕事を振って、全体の旗振りをするのが SIer 社員の仕事です。
「SIer で技術力を磨く」というのは下りのエスカレーターを逆走して上がろうとするようなもので、全くおすすめできません。
技術力を磨きたいならできるだけ早く転職した方がいいです。これは 100%間違いないです。
レバテックキャリアなどの高年収帯を扱うエージェントを使えば、年収を下げずに転職できます。
SIer のキャリアパス
大手 SIer では 3 年目くらいまではいわゆる下流工程を担当します。
キャリアパスは概ねV 字モデルに沿っていますし、キャリアパスを考える年次の高い人は V 字モデル以外を知りません。
興味もないと思います。
1 年目で詳細設計、コーディング、単体テストの練習をします。
2 年目で基本設計(外部設計・内部設計)を行い、実装と単体テストは協力会社に投げます。 結合テストを担当して、リリース担当に渡すまでが仕事です。
3 年目で概要設計とシステムテストを担当します。E2E テストとも言い換えられるでしょうか。 動作するシステムを設計して、テストするイメージです。
4 年目以降はチームリーダーとなります。
チームリーダーとは、大きなプロジェクトの一つの機能を担当するイメージです。
XX 機能の開発チームのリーダーはお前、という感じで 3〜5 人くらいのチームリーダーとなります。
チームをリードするとは、チームの状況を把握し、報告することでもあります。
プロジェクトマネージャーにチームの状況を毎週報告します。
4 年目くらいからは、一日の業務時間のほとんどが会議になります。
SIer の定例会議
SIer は会議が非常に多いです。
具体的には以下のように、無限に定例が積み増されていきます。
- チームの定例
- チームの状況を報告する定例
- 課の状況を共有する定例
- 部の状況を共有する定例
- 本部の状況を共有する定例
- 自分の隣にあるチームの定例
- 自分の課にあるチームの定例
- 外部接続先のチームとの定例
- 障害の状況を共有する定例
SIer では多くのチームが関わって複雑なシステムを作っています。
多くのチームが関わるということは、多くのチームの間で情報共有しなければならないということでもあります。
情報は自動では共有されないので、「定例」という場を作ってひたすら会議で情報を共有する Excel を読み上げるようになります。
言わずもがな、大いなる無駄が発生しているのですが、中にいる人は定例をやめることができません。 定例をやめると、やめた後に何か問題があったら責任を取らなければならないからです。
何か問題が起こると是正するために定例が設置されます。 一度設置した定例は無くせないので、定例は人間のキャパのギリギリまで、ひたすら増え続けます。
そのため SIer の 4 年目以降の社員のスケジュールは 10 時から 18 時までみっちり会議で埋まってしまいます。
野村総合研究所は激務なのか?「辞めたい」「辛い」の本音を社員が語る
プロジェクトマネージャーとしてのスキル
SIer ではプロジェクトマネジメントの経験も積むことができます。
転職市場で求められるプロジェクトマネジメントの経験は以下のようなものですが、これらはすべて、SIer の現場での経験そのものです。
- 開発目的と効果の整理
- 予定されているプロジェクトの目的やその効果を自らの視点で再点検し、計画遂行に必要な作業や判断ポイント、リスク要因を把握する。
- 実施計画の作成
- 自チームのソフトウェアエンジニアや連携システムのプロジェクトマネージャー、事業企画担当者、プロモーション担当者、顧客サポート部門管理者などの関係者と相談しながら開発内容の詳細を詰め、サービス提供までの作業工程とスケジュールを作成する。
- 説明と進捗管理
- 開発計画を関係者に説明し、必要に応じて説得や交渉を行う。進行中の案件に関しては、進捗状況を適宜共有しながら計画通りにプロジェクトを運営する。
- リスク要因が発生した場合は速やかに関係者と連携し、リスクの回避や開発計画の軌道修正を行う。
- コーチングとファシリテーション
- チームが効果的に活動できるように目配りし、必要に応じて対立や意見の相違の解決、意思決定の支援などを行う。メンバー間の相互理解促進に努める。
- 振り返りと新たな価値提供の提案
- デリバリーが完了したプロジェクトは、その効果を測定・評価する。幅広い視点でデータを分析し、新たな価値提供や改善策を提案する。
世界最大級の経済ニュースサービスのペイメントプラットフォーム開発を主導するプロジェクトマネージャー募集
ちなみに上のリンクの「株式会社 日本経済新聞社」ではエンジニア採用に力を入れています。
30 代で確実に年収 1000 万超えで福利厚生が手厚く、年功序列で給料が増えていきます。大手 SIer と遜色ない年収が出て、大手 SIer よりはモダンな環境で仕事ができます。
プロジェクトマネージャーを募集しているので、大手 SIer で働いている人は応募してみると良いでしょう。
日経新聞のエンジニアは年収が高い!最終面接に行く方法と対策、コーディングテストの攻略について
ちなみに私はレバテックキャリア経由で日経新聞のエンジニア職に応募しましたが、大手 SIer の経歴はかなりウケが良いです。
コードで実装する「エンジニア」としての日経内定は難しいかもしれませんが、プロジェクトマネージャーなら普通に内定が出ます。
年収 1000 万は確実に超えるので、大手 SIer の人は積極的に転職を狙っていきましょう。
【転職エージェント比較】JAC リクルートメントを使ってみた特徴と感想
SIer でアジャイル開発は実践できるのか?
SIer での開発はほぼ全てウォーターフォールなので、アジャイル開発の勘所は掴めません。
本を読んでアジャイルの勉強をしたり、研修を受けたりはしますが、実践はありません。
私が所属していた大手 SIer では、「アジャイル推進委員会」みたいな委員会を作って、なんちゃってアジャイル開発でサブプロジェクトを進めて練習していました。
しかしながら、ウェブ系企業で 1 年間アジャイルを実践・経験するのに比べて、得られる経験値は雲泥の差で、SIer ではアジャイル開発ができるようにはならないでしょう。
以下のような制約により、2020 年時点では SIer ではアジャイル開発はほぼ取り入れられていませんでした。
- アジャイルの経験を誰も持っていない
- 丸投げスタイルはアジャイルとの相性が悪い
- 大規模開発とアジャイルの相性が悪い
- 大規模じゃないと SIer として予算を確保できない
- アジャイルについて、SIer 内の標準化されたルールがない
ウェブ系自社開発の企業ではほぼ全ての会社がアジャイルで開発を進めているので、最初はキャッチアップが必要です。
とはいえ、スクラムマスターやプロダクトオーナーの立ち位置でジョインするならば、SIer でのプロジェクトマネジメントの経験はけっこう役に立つので、それほど心配はいりません。
入社前に以下の書籍を読んでおけば大丈夫です。
- エッセンシャル・スクラム
- スクラム
- アジャイル・サムライ
まとめ
まとめます。
大手 SIer では以下のような経験・ソフトスキルを身につけることができます。
- ステークホルダー・マネジメント
- プロジェクトリーダー経験
- プロジェクトマネジメント
- 工数管理・見積もり
- 要件定義・関係者への説明
また、周りの人が頑張って資格取得を目指すので、資格取得のモチベーションが高まりやすい可能性はあります。
一方で、以下のようなスキルは基本的には身につきません。
- プログラミング能力
- アジャイル開発の経験
- クラウドの知識
- モダンな開発スキル
- Git、GitHub、CI/CD などのウェブ系の常識
「プロジェクトマネジメント」のロール以外はウェブ系にはかすりもしない、というのが SIer のスキルセットの実態です。
逆にプロジェクトマネジメントに関しては、ウェブ系でもものすごく歓迎されます。
転職する場合は、ウェブ系企業にプロジェクトマネージャー・プロジェクトリーダーとして転職するのが良いでしょう。
プログラマとして転職する場合は、大幅な年収減を覚悟しなければいけません。